日本の書道文化をユネスコ登録へ→実態は「書き初め」でした

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日本の書道業界がユネスコ登録に動く

以前より、日本の書道をユネスコに登録する動きがあることは知っておりました。

実は、書道業界は、他の芸術・文化分野に比べて規模が大きいため1団体でまとまっていません。

プロレスやボクシングのように、各団体が世界チャンピオンを作っているような状態です。

基本的に、新聞社系列ごと、常にバラバラで行動する傾向があります。

しかし、バラバラな書道業界が「日本書道ユネスコ登録推進協議会」という組織で1つになり

9月5日、文化庁にユネスコ無形文化遺産の登録の要望書を提出しました。

これだけで素晴らしい取り組みになっていると思います。

無形文化遺産:「ぜひ日本の書道を」要望書を文化庁に – 毎日新聞

日本の書道文化を国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産に登録する運動を進めている「日本書道ユネスコ登録推進協議会」は5日、国がユネスコに登録を申請するよう求める要望書を文化庁に提出した。

全国書美術振興会、全日本書道連盟、日本書芸院の3団体を発起団体として2015年4月に発足。冠婚葬祭などを通して国民生活に根付いている書道文化を保護し次世代に継承するため、19年3月のユネスコへの申請と20年秋の登録を目指している。

荒船清彦会長と特別顧問の河村建夫衆院議員らが文化庁に宮田亮平長官を訪ね、要望書とともに約1万4000団体の署名簿を提出した。

宮田長官は「書は感動を伝えやすく、日本文化にも根ざしている。(申請に向け)大きな運動の風を起こしてほしい」と応じた。

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「書道」は、すでにアジア2カ国で登録済

既に無形文化遺産で書道を登録している国があります。

もちろん、書道の発祥の地「中華人民共和国」(2009年)は最初に登録済み。

そして、もう1カ国は、なんとモンゴルのモンゴル書道(2013年)。

4日、モンゴル書道 ユネスコ文化遺産に登録 2013/6

モンゴル書道をユネスコ無形文化遺産に登録されるよう申請していたが、ユネスコ文化遺産委員会の24ヵ国が支援したことにより書道がユネスコ文化遺産に登録されることになった。

モンゴル書道 Wikiより

中国や日本で行われている書道や朝鮮の書道と同じく、毛筆を用いて行われるが、アラビア文字のように連続した筆致で描き上げるのが特徴である。モンゴル国内だけでなく、中国国内の内モンゴル自治区にもモンゴル書道の書家がいる

im_mongol_main参考画像の右側白抜きがモンゴル書道の一例だそうです。

モンゴル文字は、日本とは逆で、左から右へと行を追う、縦書き方の文字のようです。

モンゴル文字では単語の位置(語頭、語中、語末など)によって文字の形が変わるので、縦書きしかできないようです。

平成27年7月時点で政府「No」

各社の報道からはこの先、トントン拍子に進むみたいな印象を受けます。

報道の読み方として、問題点や課題などが記載されてない場合、

「現実を記載すると記事が成立しないほど厳しい状況」というパターンが多いです。

関係者や記者は、ユネスコに書道を登録するのは厳しいと感じているから、現状は伏せていると思います。

まず、国会で平成27年 本村賢太郎議員(神奈川県民進党)が質問主意書※を出しています。

【質問】日本書道並びに仮名文字のユネスコ無形文化遺産登録に関する質問主意書

平成二十一年には中国書法、平成二十五年にはモンゴル書道が無形文化遺産に登録されており、日本の独自の文化として発展を遂げた日本書道並びにその大きな特徴でもある仮名文字についても、ユネスコ無形文化遺産として登録されるに相応しいものだと考える。

一 日本書道並びに仮名文字をユネスコ無形文化遺産に登録することについて、政府はどのように考えているのか。
二 登録に向けて、政府が過去に取り組んできた具体的な施策はあるのか。また、今後、登録実現に向けた取り組みを行う予定はあるのか。

【回答】衆議院議員本村賢太郎君提出日本書道並びに仮名文字のユネスコ無形文化遺産登録に関する質問に対する答弁書

「人類の無形文化遺産の代表的な一覧表」への無形文化遺産の記載については、当面、過去に我が国が提案し、国際連合教育科学文化機関の無形文化遺産の保護のための政府間委員会から追加情報の提出を求められているものについて取り組むこととしており、その後の更なる記載の提案については、今後検討すべき課題であると考えている。

「日本書道」及び「仮名文字」については、記載に向けた特段の取組は行っておらず、また、今後の取組についても現時点では未定である。

答えは、「他の優先すべき文化があるので、現時点ではない。」ということのようです。

なかなか厳しい状況ですね。

※質問主意書:国会議員が内閣に対し質問する際の文書。質問は緊急質問(国会法第76条)の場合を除き、文書で行うことが原則。

文化庁伝統文化課「制度上かなり難しい」

ユネスコの無形文化遺産は、文化庁伝統文化課文化財国際協力室が担当しています。

そこで、問い合わせしてみました。

予想通り、日本の書道のユネスコ登録が、かなり厳しい状況であることが判明しました。

とりあえず、ユネスコの無形文化遺産に登録される道のりをフローにしてみました。

ユネスコの無形文化遺産への道

文化庁が現状、難しいと言うのは、書道が「文化財保護法」の対象になっていないからです。

文化財保護法
文化財を保存し、且つ、その活用を図り、もつて国民の文化的向上に資するとともに、世界文化の進歩に貢献することを目的とする。

この法律は名前の通り、「保護しないといけない文化財」とあります。

前述しましたが、書道は芸術で圧倒的シェアの巨大業界です(バラバラで政治力なし)。

保護する優先順位は低いとなります(「日本料理」和食が通ったので可能性はありますが)。

ユネスコの前に、文化財保護法で”保護”してもらう必要があります(現在保護対象 約300)。

つまり、国内では、まだ議論のテーブルに乗ってすらいません。

現在、日本のユネスコの無形文化遺産の最優先は「山・鉾・屋台行事」です。

「山・鉾・屋台行事」のユネスコ無形文化遺産登録に向けた再提案について




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業界は本気!?すでに4700万円以上の寄付金が集まっている

日本書道ユネスコ登録推進基金によると

当協議会が目標とする登録最短スケジュールの2020(平成32)年までの5年間にかかる最低経費を約3,000万円と算出しております。

とのことで、寄付金を募ったところ、2016/9/5現在で4200万円の寄付金が集まっています。

協力者 件数 協力金額(円)
個人 3 5,000,000(≒日本書芸院)
書道団体 176 33,125,000
書道業界等 70 3,933,000
249 42,058,000

 

 

 

 

 

 

(追記 2017/2/13現在 47,728,000円に。最新情報はこちら

実は、私がこんな記事を書いているのも、「日本書道ユネスコ登録推進協議会」のサイトには、

日本の書道をユネスコに登録するためのフローや法的な課題など詳細がなかったからです。

後述しますが、「文化庁無形文化遺産アドバイザー」(官僚?)という人もいるのに

具体的な情報公開がなくても寄付が4000万円以上集まる書道業界は凄いです。

(日本書道ユネスコ登録推進協議会は、公益財団法人全国書美術振興会の任意団体と思うので、寄付の税額控除などあるのかな。)

日本の書道「かな書」を諦め「書き初め」へ

要望書を出した日本書道ユネスコ登録推進協議会に記載していると見てみると

申請名称案 日本の書道文化 -書き初めを特筆して-

漢字書・仮名書・漢字仮名交じり書を含めた日本の書道文化全体を登録の対象として運動を行います。

と書いています。

報道だけでは、今回申請しているのは「書き初め」ということがわかりません。

書き初め?って思っていると、後半に説明があります。

申請名称を「日本の書道文化-中でも仮名書道を-」としていました。しかし、ユネスコが審査時に最重要視する申請案件の社会的役割や社会的効果という観点を考慮し、 文化庁無形文化遺産アドバイザーの提言も反映させ、申請名称を日本の書道文化-書き初めを特筆してに改め、進むことにしました。

とあります。

国内一次予選「文化財保護法」への登録のためにも「書き初め」に絞ったようです。

そうすると、中国が既に登録済みの、日本の唐様の漢字書道も「書き初め文化」内になり、

書道業界の挙党一致体制が維持できます。

和食のユネスコ登録まで3年間の時系列

ここで、2013年にユネスコ登録された「和食」の登録までの経緯を掲載します。

和食は土俵に乗った状態で3年かかりました。

「日本の書道」は、まだその段階にはないため、4年後の登録は厳しいのではないかと思います。

和食のユネスコ登録までの経緯(一部改)

時期 事項
平成23(2011)年 7月から11月 日本食文化の世界無形遺産登録に向けた検討会
平成24年 1月から2月 文化審議会
平成24年 3月 ユネスコへの申請書の提出
平成25年 10月22日 補助機関による勧告の公表
平成25(2013)年 12月4日 政府間委員会における審査と登録決定

韓国の失敗から和食は「社会的慣習」で登録成功

ここに「和食;日本人の伝統的な食文化」で登録を成功させた農水省の資料があります。

「『和食』のユネスコ無形文化遺産登録と今後の展開」(農水省PDF)

4ページに「韓国の「宮中料理」の登録見送り」という部分があり、

・ 「宮中料理が現代の韓国国民全体のアイデンティティにどのように多大な影響を与えているのかが示されていない」(ユネスコ補助機関の勧告)

・ 現在も息づく文化として役割を果たしているかが重要な審査ポイント

という分析をしています。

そして結論は

多くの人にとって必ずしも日常的に馴染みのあるものではない「会席料理」を中心に据えた場合、同様に登録が見送られる可能性

→「日本人全員で「日本の食文化」を大切にしていくという考えを全面に出して再整理」

会席料理も書道も全く同じ状況で、今では馴染みの薄いものですね。

つまり、「和食;日本人の伝統的な食文化」をそっくりそのままパクったら

「日本の書道;日本人の伝統的な年始文化”書き初め”」みたいな雰囲気でしょうか?

(書き初めは、もともと宮中行事が江戸時代くらい寺子屋で広まったようです。)

報道先行でも世論形成 記事に「書き初め」は記載せず

今回の報道は、名を連ねている新聞社が世論形成の第一歩として出したものでしょう。

とりあえず、来年の書き初めイベントの盛り上がりが一つのバロメーターになるでしょう。

今回、賛同している中核団体は、今年から書き初めをやらないといけませんね…。

ちょっと年始は皆さん忙しい気もしますけどね。

私は、書き初め(通常は1/2に実施)をしてないので今年、気にしてみます。

また、サイト更新の内容が「寄付金が○○円に増えた!」にとどまっているので、母体は公益財団ですから進捗報告が少しほしいですね。

最悪、登録されなくても5000万円弱のお金が使途不明金になったという噂(ニュースになればまだ良いけど)は避けてほしいです。


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