書道の未来を考える:松煙墨プロジェクトで見る書道業界の可能性

松煙墨のクラファン初日で達成はすごい!

「1400年続く「松煙墨」が途絶える危機。国産松煙の製造を継承する!」松煙墨のクラウドファンディング初日での達成は素晴らしい出来事です。
ただ、一般の方には、この松煙墨のプロジェクトの背景となるそもそもの問題が見えないと思います。




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墨の現状と「読める書」の視点

産地の墨の生産量は50年前の1/30に減少。

書道は「伝統文化」と思っている人が多いと思いますが、実際には明治以降に普及した新興文化です(近代書道の創始者の写真があります)。このブログはこの共通認識がないと理解できない点が出てきます。
そのため、この「50年」という数字は、書道業界のピークだった50年前の昭和40年代から50年代を指しています。その後、デジタル化が進むにつれ、書道は衰退し(後述)、特にスマホの普及により書道離れが加速しました。

書道愛好家のこだわり 墨汁ではダメな理由

引用 1400年続く「松煙墨」が途絶える危機。国産松煙の製造を継承する!

固形墨じゃないとダメ理由は、クラウドファンディングでも記載しています。
墨汁では、固形墨のにじむ楽しさや独特な表現力を味わうことが難しいとされている点です。 現代書道において「にじみ」は重要な要素です。

古今和歌集断簡 本阿弥切「よのなかは」


一方で、通信手段(情報技術IT)として使われてきた江戸以前の「書」で、にじみは重視されません。皆さんが日常使うメモやノートが、にじんだら読めなくて困るでしょ?江戸以前の通信手段として発展した書なので、にじみは不要なのです。
にじみを大事にし始めたのは、実用を離れて表現領域で発展した現代書道の楽しみ方なのです。(前述の「書道は明治以降に普及した新興文化」ということに繋がります)
つまり、1400年前から続いた松煙墨は、にじまないことが本来の用途です。それが固形墨の需要が書道だけになったため、にじみの話が強調されています。松煙墨、油煙墨の比較に墨汁のにじみがなく一般人にはわかりにくいと思います。

書道業界の衰退を考える

第2期 文化芸術推進基本計画に対する意見 全国書美術振興会 髙木聖雨氏

今回の大成功だった松煙墨のプロジェクトを業界全体で見た場合、ポジティブな話ばかりではない気がします。
「一時的に固形墨、墨汁の予算が、この松煙墨とクラウドファンディング手数料になった」
という可能性も否定できないのです。同業界の他や未来の需要をカニバリ(共食い)による成功かもしれないのです。
実際、墨の生産量の年々減少の根本原因は、「書道人口が10年間で半数以下に減少していること」にあります。このように、書道業界全体が衰退しているのです。

本質的な問題は「道重表軽」のソフト不足

この衰退の根本原因は「墨を消費するソフト不足」にあると考えています。ゲーム業界で言うところの、PS5やSwitchといったハードウェア(道具)と、それを活かすソフトウェア(ゲーム)のバランスが欠けているのです。

書道業界(筆記具業界も同じ)では「道重表軽」(道具重視で表現軽視)が続いています。
書道業界、手描き業界では、道具メーカーや利用者は道具(ハードウエア)にこだわるが、道具を使うための書き方(ソフトウエア)開発に対して無関心または軽視している傾向があります。この状態では、新しい興味を引くような表現方法のソフト開発が進みません。

文化の保存と進化の重要性

誤解しないでいただきたいのは、筆墨硯紙を否定しているわけではありません。ハードウェアとソフトウェアは同時に発展させる必要があるのです。伝統を守ることが文化庁の予算や人的リソースの浪費に陥ることなく、新しい表現方法の開発に投資されなければ、時代に合った消費不足は解決できません。
私は松煙墨に限らず、書道業界の衰退の原因は、新しいソフトを提供できなかったことにあると感じています。書道業界が新規ソフトの開発を止めれば、新規参入者が減り、その結果、古典を学ぶ人も少なくなり絶滅危惧種状態になります。このような全体的な衰退が進む中で、一部の消費が増えただけならカニバリで業界全体としての復活にはつながりません。




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新しい消費提案が書道業界に受けいられない背景

私は15年以上、新しい書き方のソフト提案をしていますが、書道業界内では賛同が得られないのが現実です。
年配の方はもちろん、若い書道愛好家からも否定的な意見をもらいます。そういう雰囲気があるため、新しい書き方提案をする人は私しかいないのではないかと思います。
固形墨のメリットは「携帯性」だと思っています。小さい良い硯と数滴の水があれば、30秒ほどで墨を作れてメモ程度の文字が書けます。(私なら、鋒鋩が良くない硯でも早く摺れるリップクリームのような固形墨があればより用途が広がるなと思ってしまいます。)

でも、これが賛同されない理由は、こういう場面で書く文字が小文字だからです。小文字が好まれない背景は、昭和にピークを迎えた書道ビジネスの利益構造が影響しています。

引用 西谷卯木氏の大字仮名


学校の習字のような1文字が大きな毛筆は、実用性がまったくないため、当然、伝統はなく、昭和に定着した”昭和最新版”の書道です。伝統を重視するはずの書道業界で、伝統にはない”大きく書く”という新スタイルが受け入れられた理由は、大きな文字を書くためには、大きな筆、大量の紙、墨を消費するため道具販売をする書道の先生にとって、大変嬉しいことなのです。
実際に、小さかった小筆のかな書も、今では巨大化していることは書道愛好家なら皆、知っている話です。
私は、縦横書き対応の現代文に合わせた小作品を提示しています。日本家屋から床の間がなくなった今、縦書きしかできない縦長の意味不明な暗号が書かれたの大きな作品というソフトに固執して書道人口の減少を止める方法が私には思いつきません。

結論

2024/8
450×450

以上の視点から、松煙墨のプロジェクトは素晴らしい成果ですが、道具だけではなく、私達、書家には書き方や表現方法の提案が求められています。文化を守りたいなら、未来へと繋げていくためのアプローチが必要です。
今後ますます多くの人に松煙墨の魅力を知ってもらうと同時に、道具を使う、消費する新たな書き方を提案していきたいと思います。


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